somewhere sometime


4


「待ってくれよ。」

「…そなた…。」

「行くの。姫さん連れて。」

「ああ。そなたも息災で…。」

「そんな事聞きたいんじゃないっつーの…。」


「…すまない。」

「謝んな…!」



「オレは…あんたが…!」


分かってても、それでもずっと。

これからもずっとあんただけが。

#######



また妙な夢を見たような気がする。
そのせいか、凌統は朝から倦怠感を感じていた。

一週間前も同じような感覚に陥ったように思う。
なんだろう、やたら頭に残る。

というか、心に残る。


情景はおぼろげだったが、誰かが誰かに感情を叩きつけていたような。
あれは誰だったのか…。

そう思いながら、気分転換に外に出ていた。


その時だった。


「凌統さん!」

「あ?」
突然名前を呼ばれ、振り向くとそこに見知った顔が居た。

同じゼミの優等生で、いくつか飛び級をした年下の同級生。
そしてこれから年下の同僚となる少年だった。

「よ、陸遜。
 どうしたんだ?んなとこで。」

「ええ、たいしたことじゃないんですが。
 ちょっと凌統さんに頼みごとがありまして。」


「オレに?…何。」

「やだな、そんな警戒しないで下さいよ。」

凌統としては別に陸遜がキライなわけじゃない。
むしろ仲の良いほうではあると思う。

だが陸遜に頼まれて、閉口しなかったことはなかった。
それくらい綺麗な顔でさらりと無理難題を言うのだ。

つまりあまり性格がよろしい方ではないのである。


かといって断れないのも事実。(退路を絶たれる為)


陸遜は涼しい顔で言葉を続けた。


「実は、孫権さんに相談を受けたんです。
 どうやら姫…尚香さんの様子がおかしいようだって。」

「…姫の?」

尚香の名前が出た時点で、凌統はあることを思い出した。
1週間前に会った、尚香とその思い人。


「ええ、実は心当たりはあるそうなんです。
 その…姫にお見合いの話が来てて…。
 それが嫌なんだろう、って…。」

「見合いぃ?!」


(いや、そりゃいくらなんでも嫌だろ。
 あの惚れようだもんな…。)

あのプライドの高い尚香が付きまといに近いほど、会いたがっている相手がいるのに。
なのにそれは流石に残酷だった。

「でもそれだけじゃなさそうなんです。
 時々何か思い出したみたいに切なそうな顔をするって…。」

「へー…。」
(だろうなー…あの劉備って人の事考えてるんだろうな。)


「それでもしかしたら姫に恋人がいるんじゃないかって思ったそうなんです。
 でもそうなら、あの姫が口にしないわけないし。

 他に原因があるんじゃないかって。

 で、自分が聞いても素直に答えそうにないから、それとなく聞いて欲しいってわけなんです。」


「…お前が頼まれたんじゃないの?」
(なんでよりにもよってオレに聞くわけ…。)


「いえ、僕より凌統さんの方が仲良いかなーと思って。
 ほら、一週間前に姫とマッ○に行ってたじゃないですか。」

「……;;;」

(つまりこれは頼むと同時にカマかけも入ってたってことかい。
 勘違いもいーとこだっつーの。)

凌統は一つ大きい溜息をつくと、とりあえず誤解だけは解くことにした。


「言っとくけどオレじゃないからな。」

「あ、やっぱりそうですか?」


どうやら信じていなかったらしい。
それはほっとしたが。

(結局カマかけてたな、こいつ。)

友人の腹黒さに、内心でもう一つ溜息をついた。

「…分かったよ、一応聞くけど、情報出なくても怒るなよ。」

「ええ、ホント言うとダメもとですから。」

(こいつ一回殴る…!!)


#######


「はあ…まあ一応姫には疑われてるって言っとくかなあ…。」
陸遜と別れて、凌統はどうしたものか、と空を仰ぐ。

聞くも何も、尚香の物思いの原因は眼にしているのだ。
孫権の敵に回るつもりはないが、かといって尚香を裏切ることもできない。

結局口止め料の分、尚香の肩を持つことにしておこう。


そう思った。

その時。


〜♪


凌統の携帯が鳴った。

画面を見ると、なんともタイムリーなことに相手は尚香だった。

「はい、姫?」
『あ、凌統?今どこにいるの?!』

「え?どうしたの?」

切羽詰った尚香の声に凌統は驚く。

『いいから!今どこ?!』

「公園…だけど…。」

いつものルート。
尚香と劉備が会っていた場所でもある公園だ。

『それ、劉備さんの来る公園よね!』
「あ、ああ。そうだけど?」


『今日急用ができちゃって、どうしても行けなくなっちゃったの。
 劉備さんが来たら伝えといて!』

「え?あ、ああ…かまわないけど。
 そうだ姫さん、ちょっと話…。」

『ごめん、また今度聞くから!劉備さんに失礼なことしないでよ?
 お願いね!』

プツリ


「……。」

(聞けよ、人の話…。)

半ば唖然としながら、携帯を閉じた。


その時、後ろから足音がした。



振り向くと、その人が来た。




「おや、君は…。」

「ども…劉備、さん…。」

「凌統くんだったね。こんにちは。」



いきなりの事に、凌統は驚きながら、ぎこちなく挨拶を口にした。

劉備はにこりと笑って、それに答えてくれた。



(あれ…やっぱ、どこか…で。)



「…また会えたな。」



いつかもそう言われたような気が、した。



                           To be Continued…


何か腹黒い陸遜くん登場です。
どうも私の中で陸遜はこういうイメージらしくて…。

さて、ようやく二人で会えましたが。
これからどう変化をつけるか…私も楽しみです(おい)


戻る